2010年7月22日木曜日

WiMAX対応無線LANルータ「AtermWM3300R」使いこなしガイド

モバイルWiMAXや3Gデータ通信など、定額で利用できるモバイルデータ通信サービスがじわじわと浸透しつつある2010年、現在所持する無線LAN対応デバイスを簡単に「ワイヤレスインターネット対応」にできる小型の無線LANルータ機器にも注目が集まっている。

 NECアクセステクニカの「AtermWM3300R」(以下、WM3300R)も、そのトレンドの1台だ。WAN側は受信最大40MbpsのモバイルWiMAXに対応しており、モバイル環境においても家庭向け光ファイバーやADSL回線に匹敵する通信速度をワイヤレス環境で実現する製品。

 WM33000Rは、UQコミニュケーションズが提唱するWiMAX対応無線LANルータの呼称「WiMAX Speed Wi-Fi」の1製品で、UQ WiMAXおよびUQコミュニケーションズのMVNOとして展開する各社のWiMAX接続サービス(@nifty WiMAX、BIGLOBE高速モバイルWiMAX、DIS mobile WiMAX、YAMADA AIR WiMAX、BIC WiMAX SERVICE、So-net モバイルWiMAX、@T COM WiMAX、エディオンKuaLnet、au one net、以上WiMAX統合ポータルスタートページ表記順)で利用できる。ブロードバンドルータ製品として定評のあるAtermブランドの1つとして、家電量販店のPC周辺機器コーナーや通信販売などで単体で手軽に購入できるのも特徴だ(一部店舗では、特定のNVNOサービス加入・利用を条件に端末を割安に購入できる場合もある)。

 では、外観デザインと機能の特徴を見ていこう。ボディサイズは94(高さ)×67(幅)×22(厚さ)ミリ、重量は約145グラム(バッテリー込み)で、手のひらに収まる小型サイズを実現する。例えば、折りたたんだよくある携帯電話(プラスアルファ)程度──を想像してもらうとよい。

 ボディの上面に充電/PC接続用のMicro USB端子とスライド型の電源(兼動作モード切り替え)スイッチ、前面に5種類の状態表示インジケータと設定ボタンを備える。このインジケータで、電源オン/充電中/無線LAN動作のほか、WiMAXアンテナレベル(およびWiMAX対応エリアか否か)を視認できるようになっている。

 本機はモバイルWiMAX(IEEE802.16e-2005)に対応し、インターネット接続は下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsで通信できる。なお、UQ WiMAXに加えてMVNO 8社の計9サービスで接続確認済みの認証機器とである。

 モバイルWiMAX通信を複数のデバイスで共有できる無線LANアクセスポイント機能は、2.4GHz帯のIEEE802.11g(最大54Mbps)とIEEE802.11b(最大11Mbps)に対応する。無線LAN接続のセキュリティはWEP、WPA-PSKに加え、ファームウェア2.0以降でWPA2-PSKにも対応。高セキュリティ設定での接続が望ましいPCと、家庭用の無線LAN対応ゲーム機などを同時に利用できるよう──複数のSSIDに分けて運用できる「マルチSSID」もサポートする。ルータ機能としては接続機器の台数に明示的な制限がない点も特徴の1つ。

 WM3300MはPCとUSB接続することで単体のUSBモデムとしても利用できる。この機能を応用し、普段は無線LAN接続で利用するが、内蔵バッテリーがなくなってしまったらPCにUSB接続して作業を継続できるわけだ。このような緊急的な利用はもちろんだが、出張で宿泊するホテルなど、屋内でPCの電源が確保できる場合はUSBモデムとして使うなど、シーンによって使い方を切り替えながら利用できるのが、実際に使い始めると分かる便利な部分だ。PCとUSB接続することにより、初回接続時に自動で接続ユーティリティソフトがインストールされ、モバイルWiMAXの契約がなくても(WiMAXエリア内で)オンライン契約でき、即座に使い始められるようになっている。

 なお、WM3300RはWiMAX対応ポータブル無線LANルータの国内第1弾として2009年11月に登場した機器だ。すでに幾度かのファームウェアバージョンアップが行われ、いくつかの機能の向上や小さな不具合が解消されている。執筆時点のファームウェアは2.0。

●「らくらく無線スタート」で高セキュリティと簡単設定を両立

 無線LANルータおよび無線LANの利用において無視できないのが、無線LAN区間を中心としたセキュリティ設定にある。WM3300Rは出荷段階で個体ごとに個別のSSIDと、MACアドレスなどからでは推測できないユニークな13ケタの暗号キーがあらかじめ設定されている(バッテリーカバーを外すと、初期設定の文字列を確認できる)。また、設定の変更はブラウザでWM3300Rの設定ページを呼び出して行う仕組みだが、初回の接続時に必ずパスワードの設定を行っておく必要がある。このように、出荷状態のセキュリティ設定のままでもおおむね安心して使えるようになっている。

 初期状態の暗号キーは、本体バッテリーカバーを外すと確認できる。無線LAN設定に慣れたPCユーザーであれば、本機の無線LAN電波を探し、ケースに記述される暗号キーを入力するだけですぐ使えるようになる。

 ただ、暗号キーは13ケタもあるので、キーボードを備えない家庭用ゲーム機などではかなり面倒で、そもそも普段PCを利用しないユーザーにとっても無線LANの設定方法は少し難しい。この点をカバーするのが「らくらく無線スタート」機能だ。家庭用ゲーム機であれば、ニンテンドーDSシリーズやWii、PlayStation 3、プレイステーション・ポータブルシリーズが対応している。ゲーム機側の操作で自動設定モードを起動し、画面の指示に従ってWM3300Rの設定ボタンを2回操作するだけで、自動的に接続の設定を行ってくれる仕組み。これを用いることで、今まで無線LANを利用していなかった初心者や若年ユーザーも簡単に設定できるだろう。

 なお、PC初心者向けにもWindows 7/Vista/XP(SP2移行)に対応する「らくらく無線スタートEX」ソフトがあり、上記の家庭ゲーム機と同じ手順で設定できる。このユーティリティソフトはWindowsの標準無線LAN機能(Windows Zero Configration)に対して接続設定のみを行うツールなので、独自の無線LAN管理機能を追加したり、常駐ソフトとして動作しない点もちょっとしたポイントだ(ただ、このことを気にする人は、この手のユーティリティソフトを使わずとも無線LANの接続設定くらいは手動で適切に設定できるとは思われるが)。

 これらの自動接続機能で、PCや無線LAN設定に詳しくはないユーザーでも無線LAN区間のセキュリティをかなり良好に保つことができる。接続するデバイスがサポートする最良な暗号化モードを自動で選択してくれるため。

 WM3300Rは複数の暗号化モードを使い分けられるマルチSSIDもサポートするが、初期状態で高セキュリティのWPA/WPA2-PSKと、やや古い無線LAN機器やゲーム機で対応するWEPでの暗号化接続用に2つのSSIDがそれぞれ個別に動作している(電源を入れて無線LANの電波状況を検索すると、2つのSSID/アクセスポイントが見つかる)。ニンテンドーDSなどのWPA/WPA2-PSKをサポートしないデバイスは、主にWEPを使用するアクセスポイントを選択することになるのだが、暗号キーが解読されてしまう可能性がある低セキュリティで接続する(WEP/あるいはセキュリティ設定なし)のデバイスからは、WPA/WPA2-PSKで接続した端末(ノートPCなど)へアクセスしたり、WM3300Rの設定画面そのものへアクセスできない設定となる。お手軽な自動接続機能を使っても、セキュリティ強度が落ちるお粗末な設定にはならない──のが安心できる。

●Atermシリーズらしい充実の無線LANルーター機能

 ブロードバンドルータ製品で定評のあるAtermシリーズらしく、無線LANルータとしてのさまざまな機能も充実している。すでに触れた通り、本機は2つのSSIDを運用できるマルチSSIDをサポートしており、暗号化モードの任意設定はもちろん、異なるSSIDで使用する機器間の通信を遮断する、MACアドレス指定(接続履歴からの選択も可能)で接続を制限する、SSIDそのものを隠す、といった設定も可能だ。

 なお、WEPしか設定できないゲーム機と併用するシーン以外に、2つのSSIDのどちらも高セキュリティの「WAP/WAP2-PSK」に設定し、家族や知人用接続と自分のPCの接続を切り分けて運用する、あるいは、どちらか一方を暗号化なしにして仲間用の簡易無線LANスポットとして一時的に解放する、といった応用方法もアリだろう。

 少し進んだ使い方として、DHCP設定のまま指定したデバイスだけを固定IPアドレスに指定できる「IPアドレス固定割り当て機能」もけっこう便利。

 これは特定のMACアドレスの端末に決まったIPアドレスを割り振る機能。本来は主にLAN内にWebサーバなどを設置する場合に用いるものだが、モバイル環境の個人ユーザーが応用してもよい。例えば、iPhone/iPod touchやiPadユーザー。無線LANを用いたファイル転送機能を備えたiPhoneアプリにおいて、家庭内で使うIPアドレスを固定しておけば、毎回IPアドレスを確認して設定する手間が不要になったりする。

 もちろんブロードバンドルータとしての基本的な機能もおおむね備えている。LAN側のIPアドレス/ネットマスクの変更、DHCPによるIPアドレス割り当て範囲の変更、ポートマッピング(ポートフォワード)、UPnPのオン/オフ、IPCSecパススルーのオン/オフなどは普通に設定可能だ。インターネット側への通信が一定時間発生しない場合に自動で電源をオフにする機能も搭載する。

 冒頭でも触れたが、WM3300Rは無線LANデバイスの接続台数に明示的な制限がない。もちろん100台もの無線LANデバイスを接続して使用するのは現実的ではないが、ほかのモバイル無線LANルータが5台程度の接続制限があることと比較すると便利な場合も多い。

 昨今、ちょっと知人が集まるとPCやスマートフォン、携帯ゲーム機などで合計6台以上の無線LANデバイスがそろってしまうこともざらだ。通信速度が限られる3Gデータ通信と違い、普段も下り数十Mbpsと高速に通信できるポテンシャルがあるモバイルWiMAXなら、接続台数に制限がない点はことさら大きな魅力の1つになる。

●バッテリーを搭載し、いつでもどこでも利用可能──モバイルバッテリーなどとの併用も

 WM3300Rは、着脱・交換が可能なバッテリー(3.7ボルト/1880ミリアンペアアワー)を内蔵しており、無線LANルータとして約2.5時間の動作が可能だ。利用シーンにもよるが、一定の場所(移動/基地局のハンドオーバーなし)で使うだけなら実測で3時間程度動作することもある。

 さて、WM3300Rはポータブル無線LANルータということで基本的に手元に置いて使うだろう。それなら、無線LANの出力を絞るとさらなる動作時間の延長が望める。設定画面で無線LAN出力を「12.5%まで落とす」と、PCの一般的な利用においてもバッテリー動作時間が3時間を切ることがほぼなくなるほどだ。12.5%に落としても見通しで10メートル以上は電波が届き、よほど離れた場所で使うのでなければ困らない。こちらは、より長くバッテリーで動作させるちょっとしたコツだ。

 バッテリーの充電は、付属するACアダプタのほか、電源オフの状態なら付属するUSBケーブルを利用してPCのUSBポートから充電できる。

 また、(メーカーが想定する利用範囲外なので自己責任としてほしいが)USB出力型の汎用ポータブルバッテリーを併用するのも便利。例えば三洋電機「エネループ スティックブースター(KBC-D1AS)」を用いると、おおむね1時間~1.5時間ほどバッテリー動作時間を延長できる(さらに単三形のエネループをスペアとして複数本携帯しておけば、そのまま継ぎ足し利用もできる)。より大容量(例えば3.7ボルト/5000ミリアンペアアワーほど)のポータブルバッテリーであれば、内蔵バッテリーと合わせて約8時間もの動作も可能である。

 注意点があるとすれば、WM3300Rは常に内蔵バッテリーからの給電で動作する仕様のため、内蔵バッテリーがカラになってからポータブルバッテリーを接続しても動作しない(か、短時間で電源か切れてしまう)ことだ。内蔵バッテリーが充分残っている状態でポータブルバッテリーを使うのが利用におけるコツだ。

 内蔵バッテリーは「AtermWM3300R用電池パック(PA-WM01B)」として単体販売も行われている。これを複数用意して長時間の動作に備えるのもよいだろう。ちなみに、このバッテリーは汎用形状のもので、一部の他社製品(例えば三洋電機“Xacti”シリーズ用「DB-L50」)と共通だったりもする。もちろん、標準バッテリー以外での利用は動作保証外なので、自己責任としてほしい(※バッテリーの液漏れなどで故障が発生した場合などは、保証期間内でも有償修理だろうし、そもそも修理を受け付けてもらえないことがある)。

 さて、7~10時間もバッテリー動作するモバイルノートPCやモバイル機器が増えた中、肝心のWM3300Rが3時間程度しか持たないのではやはり心細い(これは、ポータブル無線LANルータ全般に言えることではあるが)。より長くモバイル環境で利用したいなら、スペアバッテリーやモバイルバッテリーを使う方法でこの弱点をおおむね解消できてしまう。

●アップデートで接続性も大幅改善、無線LAN/USB接続ともに安定した高速通信

 WM3300Rは2009年11月の発売から半年以上が経過した機器だ。

 発売初期のファームウェアは、高速移動時のハンドオーバーに時間を要してしまう若干の課題があった。送受信能力に問題があるわけではなく、移動して一度接続が途切れると、電波が届いているにも関わらずインターネットへの再接続に時間がかかるという症状だ。これは、ファームウェアアップデートの度に少しずつ、そして2010年3月に提供された「ファームウェア2.0.0」でほぼ問題ないほど改善された。

 WiMAX基地局密度の向上やネットワーク側の改良も進んだ相乗効果と思うが、発売ほやほやだが不安定な機器と違い、メーカーやユーザーのフィードバックで改善された「安定」「安心」の項目を備えているのもポイント。


●屋内でモバイルWiMAXを徹底活用する人向けの新機種「AtermWM3400RN」も登場

 屋内(AC電源がある場所)でモバイルWiMAXをガッツリ使いたい人向けとなる新モデル「AtermWM3400RN」も2010年7月下旬に登場する。

 WM3400RNは、WM3300Rの小型ボディはほぼそのまま(厚さのみ34ミリと、少し厚めになった程度)に、無線LANがより高速なIEEE802.11nに対応し、有線LANポート(100BASE-TX対応)も1つ搭載する。固定ブロードバンド環境がない家庭(引っ越し直後で固定回線を引いていない場合なども含む)や、あっても速度が遅いユーザー、あるいは無線LAN機器がないデバイス(デスクトップPCやネットワーク対応AV機器など)を接続したい場合にお勧め。

●無線LANルーター部の安定感も魅力の「WiMAX対応小型無線LANルータ」

 2010年7月現在、バッテリーで動作するWiMAX対応モバイル無線LANルータはすでに4製品が登場している。これらと比較した場合を含めて本機の大きな魅力を上げるとすると、ここまでに上げた無線LANルーター部分の機能充実に加え、Atermシリーズならではの安定感が挙げられる。「らくらく無線スタート」に対応する家庭用ゲーム機などでまったく問題なく接続できることはもちろん、WPA/WPA2-PSKでの接続で機器によって相性問題が生じることもあるとされるiPhone/iPod touch、iPadもまったく問題なく利用できた。これら以外にも10台ほどのスマートフォンとのなんらトラブルのない無線LAN接続を確認している。

 本機は発売からすでに半年以上が経過していることもあり、サイズ、バッテリー動作時間などでは後発製品に若干見劣りする部分は確かにある。ボディサイズに関しては少し厚みがあることから薄着のシーズンに衣服のポケットに入れて運用するのは少し無理がある。もっともこちらは、バッグやポーチに収容しておくなら困らないわけだが。

 バッテリー動作時間に関しても、純正の予備バッテリーが比較的入手しやすく、自己責任で使うならモバイルバッテリーとの併用でかなり便利になる。さらに細かいが、電源スイッチがスライド式なので、ポケットやバッグに入れたまままでも手探りで容易かつ確実に操作ができるのが、使ってみると分かっていただける部分だと思う。

 このほか、3段階のWiMAXアンテナ表示機能もポイントが高い。モバイルWiMAXの電波状況に不安のある場所で利用する場合、例えば喫茶店に入る前に「WiMAX OKか否か」を判断するWiMAXチェッカーとしてかなり役立ってくれる。

 モバイルWiMAXのスピードと快適性、コストパフォーマンスやシンプルな契約・料金体系のメリットとともに、PCはもちろん、携帯ゲーム機やiPhone/iPadなどでも使える利便性、そして安定・安心感を兼ね備えた本機は、無線LAN対応のモバイルデバイスユーザーにとって「1つ持っておくと、確実に便利」な完成度の高いポータブル無線LANルータである。