2009年12月24日木曜日

Twitter創業者の新事業「Square」の衝撃

Twitter創業者のJack Dorsey(http://twitter.com/jack)の新事業「Square」(http://squareup.com/、http://twitter.com/Square)が発表された。

Squareの基本ビジネスは、製造原価1ドル以下といわれる、マイクロホンジャックに差し込む磁気カードリーダーをiPhoneに差し込んで、クレジット決済サービスを個人間に開放するというもの。Dorsey氏の言及によれば、この磁気カードリーダーは無料で配布する予定らしい。

公表されている資料によればSquareのサービスは、
・加盟店審査がない。カードリーダーは無料で配布され、簡単なサインアップで個人間のカード決済が可能となる
・iPhoneという大量生産される市販の端末に、外付けのデバイスをつけて、決済端末に利用しようとしている
・磁気カードを主体とし接触ICカード読み取り機能がない
Webのビジネス感覚からすれば、当然に思えるが、従来からの事例を知る立場からは画期的なサービス。

実は、市販の携帯電話を用いてカード決済を行うというコンセプト自体は新しいものではない。
Squareが採用していると思われる方式のように、外付けデバイスでカードを読み取った段階で暗号化を行う仕組みはいくつも提案され、実ビジネスにつなげようとする動きも事例として存在してきた。モバイル通信端末は、設置の手間が格段に少なく、端末のコストを大幅に下げればカード決済取扱金額の低い、多くのサービスでカード払いが可能となるからである。しかし、少なくとも国内でのそうした動きは、保守的なカード会社からの抵抗により日の目をみることはなかった。

 また、個人間のカード決済はさらに、微妙な話だ。まず、法的な面からいえば、日本では、PayPalのサービスも、現時点、国内展開することができない。PayPal(注1)のようなサービスは「個人間の為替業務」とみなされ、銀行免許が必要となり、来年に予定されている「資金決済法」により初めて、銀行以外の法人にも開放される業務であるからだ。そして、それをクリアしても、“チャージバック”を含めた保守的なクレジットカード会社の壁がある。

Squareのサービスは、利便性は分かっているけど、できないサービスだったのだ。しかし、それが、Twitter創業者というセレブが関与し、資金が付くことで、VisaやMasterなどのカード機構の支援を受け、エレガントな形で実現できてしまうという点は、米国ベンチャーの実現する力に感服せざるを得ない。


日本での展開

では、Squareが今後、日本に進出して、日本の決済市場の勢力を一変させるのかといえば、そこには、いまだ困難な面も存在している。

Squareのサービスは、いわゆる決済端末の「ロングテール」ソリューションだからである。規模のあるクレジットカード利用店舗では、まず第一に、店舗のPOSと端末が連動していることが多い。つまり、iPhoneなど、余計な端末を利用したくはないのだ。また、大規模業者であれば、カード会社から提示された低い利用料率で囲い込みが行われる。そのため、おそらく既存の決済網とは棲み分けが行われることになる。

 
Squareに特に高いニーズがあるのは
・個人、小規模事業者にある程度高い料率でカード決済を提供するニーズ
・既存のカード店舗審査では通らないタイプのビジネスニーズ
・中小向けの売り上げ管理システム自体をASP提供しカード決済端末をシンクライアント化するニーズ
 
 の3つの領域だが、ロングテールの話で象徴されるように、潜在マーケットは大きい。だが一方、実は、当面の主力収益源は「既存のカード店舗審査では通らないタイプのビジネスニーズ」、いわゆるグレー系ビジネスである。特に、日本での展開では、既存カード会社からの攻撃を含め、クローズアップされることになるだろう。Squareが高い資本力で、はじめから、ロングテールのみに依存するのか、グレーで収益力を稼ぎながら拡大する手法をとるのか、展開が楽しみ。
 
(注1)PayPalの個人間送金の場合、まず、クレジットカードからPayPalアカウントへの電子マネーのチャージという形式をとり、次に、PayPalアカウント間の資金の送金という形式を踏む。通常のクレジットカード払いは、支払いの原因となる取引そのものの正当性がカード会社の保護対象となる。しかし、PayPalでは、基本、その保護対象の取引は、「チャージ」の段階で終了しているため、その後の「送金」には保護は及ばない。「送金」に関していえば、もともと商人間の取引の安全性から、送金相手が悪人か善人かを保証責任を送金業者は追わない。送金後のサービス提供はあくまで当事者同士にゆだねられているのである。ただし、PayPalにおいても、PayPal自体の信頼性維持のため、ギャンブルなどの取引や問題アカウントは排除する方式を取っている。

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